三月は深き紅の淵を

 恩田陸さんの作品には、よく別の作品の登場人物が顔を出しているように思いますが、この3冊は、特に強い関連作品だったようです。
 

麦の海に沈む果実 (講談社文庫)

麦の海に沈む果実 (講談社文庫)

この「麦の海〜」は以前読んでいたので、さらに、連休を利用して、
黒と茶の幻想 (上) (講談社文庫)

黒と茶の幻想 (上) (講談社文庫)

三月は深き紅の淵を (講談社文庫)

三月は深き紅の淵を (講談社文庫)

の2作品を友人のK弁護士から借りて読み進みました。
 「黒と茶〜」は、大学の同窓生4人が、30代後半になってふとした切っ掛けから屋久*1旅行に出かけることになり、屋久*2をめざしてひたすら歩き続けるというシチュエーションになっています*3。4章が参加者4名それぞれからの視点とその1人称で語られるという形式ですが、当初、もっとも謎めいて感じられ、物語の最後の種明かしになるのではないか、と思われた登場人物が第3章を担うという趣向のおかげで、4分の3を読み進んでも先が見通しきれない作品です。淡々と進んでいくのですが、最後まで不思議とはらはらさせられました。なお、僕も物語で設定された年代にだんだん近づいてきているので、どの登場人物にもどこかしら共感できるところがありました。この作品を読んだ10代とか20代の人はどんな感想を持つのかな、と思います。
 「三月は〜」はこれも小説の形式美を存分に味わうことの出来る作品でした。内と外に同じ題名の一冊の本があり、それぞれが同じ副題の4部仕立てになっているという設定でちょっと複雑ではありました。ときどき、今語られているのは「内」の話しなのか、「外」の話しなのか分からなくなったりして、作者の術中に思うがままにはまってしまいます*4

*1:Y島とされていますが

*2:これもY杉とされています

*3:なんだか、有名作「夜のピクニック」に通ずるところのある設定です

*4:それを楽しむ作品のような気もしました