実名通知で弁護士戒告

 二弁*1で,内部告発者の実名を会社側に伝えたとして,35歳の弁護士*2が戒告の懲戒処分を受けたそうです。

内部告発者の実名を会社側に通知、弁護士を戒告処分
           3月11日16時21分配信 読売新聞

(前略)同弁護士会懲戒委員会の議決書などによると、社員は06年4月5日、同弁護士に電話で不正を告発したところ、翌日、会社から10日間の自宅待機を命じられた。虚偽申告などを排除するため、通報は実名で受け付け、会社側には匿名で通知する仕組みだが、同弁護士は「社員が『もみ消されると困る』と希望した」とし、実名を会社側に伝えた。一方、社員は「希望した事実はない」と否定していた。
(中略)懲戒委員会は、社員が自宅待機を命じられた後、弁護士に抗議をしていない点などを挙げ、「社員は承諾していた」と(中略)の判断を示した。しかし、承諾に際して弁護士が、実名通知で起こりうる不利益を、社員に具体的に説明していないことなどから、「社員が自発的な意思で、会社に実名を通知して不正を調査するよう求めた承諾とは認められない」と判断、弁護士は「秘密保持義務に違反している」と結論付けた。(後略)

 ある役員*3経験者から,以前「懲戒請求のうち,説明義務違反などが問題となる事案では,言った言わないの水掛け論が多い。メモでも何でも良いから事実経過をあとで反芻できる記録や備忘録を残すことが大切だ。これがないと,的確カツ有効な反論,防御が出来ない。弁護士会としては,身内に甘い,との批判を受けたくないから,シビアな姿勢で対応される。依頼者や相談者への説明内容はしっかりと記録しておくように君たちも気を付けて」とのありがたいご指導を頂きました。
 「さすがに弁護士なんだから○○していたはず」という事実上の推定*4は働かない,ということですね。この新聞のケースでも,内部告発者保護の立法事実*5や趣旨なんてものは,法律家同士という基準からみれば「知っててあたりまえ」で,弁護士が実名告発を勧めたり,無断で実名告発をしてしまうなんて言うことは「考えにくい」のですが,懲戒の場面では,カギ括弧付きの部分のような推定は働かないこともあるわけです。確かに,実名告発という手段を選択して実行するからには,明らかにイレギュラーなケースなので,やはりそれ相応の経緯を記録し,告発者に十分な説明をして明確な判断をさせる必要があります。そして,その過程をつぶさに残しておく必要があるのでしょう*6
 僕も前記元役員のアドバイスを聞き,他人の懲戒事例を何件か読んでからは,打ち合わせや電話,法律相談でのやりとり,会話の相手方が出した要望内容やアドバイスの趣旨,要点などをなるべくメモにして残すようにしています。特に,イレギュラーな要望があったときに,どのような回答をしたかなどについては,気を付けて記録するようにしています*7

*1:第二東京弁護士会。歴史的経緯から,3分裂している東京の弁護士会。最後に出来た三つ目の単位会です。

*2:この記事からすると,多分社内弁護士ではなくて,外部の法律事務所所属の方のよう

*3:多くの場合,役員といえば,副会長のことを指します。

*4:救済,助け合い,なれ合い,ともいう

*5:その法律を必要とする事情,社会的背景,立法の合理性を支える事実などをいいます

*6:例えば,説明書を交付して記名押印させるとか,説明したメールに返信させるとか。どこの世界でもあることですが,いかにスマートにやるかという点での工夫は必要で,ここで失敗すると通報者が通報窓口に対する信頼を形成できないこともあるでしょう

*7:それでも,多忙だとつい簡単にしか記録しなかったりして,,,,,本当に十分かどうかは疑問なしとしませんが