有給取得を巡るトラブル
事例
住山さんは,事務機器販売会社の事務職としてつとめる女性です。従業員20名ほどの会社でしたが,ほとんどの職員は営業職で,事務所で内勤している職員は住山さんと,もう一人のパートさんだけでした。
住山さんは,内勤できる職員が少ないため,これまで有給休暇の取得はほとんどしていませんでした。ですが,今年はいつもと違っていました。住山さんは大の天文ファン。この夏,日本でも皆既日食が見られるとあって,どうしても奄美大島に1週間の旅行に行きたくて仕方ありません。そこで,会社に迷惑をかけないようかなり早い段階で上司に相談し,休暇を申し出ました。
ところが,会社は有給休暇をなかなか認めようとせず,「和を乱した」などとして始末書の作成を強く求めるなどしてきました。さすがにおかしいと感じた住山さんは,法律相談を受けたりして,ねばり強く交渉した結果,有給休暇の取得は認められました。しかし,休み明けの住山さんを待っていたのは,突然の配置転換でした。慣れない営業職への異動を命じられ,厳しいノルマを課された住山さんは,外回りの仕事で体力的にも参ってしまい,精神的にも疲れきってしまい,病気休職に追い込まれました。
解決の流れ
相談を受けて受任した弁護士は,まず交渉での解決を試みました。会社に対して内容証明郵便を送付し,会社の対応の問題点を指摘して,一定期間の休職後,内勤で復職させるように求めました。会社は弁護士の指摘には応えず,かえって住山さんの仕事ぶりについて些細な点をあげつらって,復職には難色を示しました*1。
そこで,弁護士は労働審判を申立てました。裁判所では,第1回目の期日から実質的な審理と調停が行われ,第2回の期日では,申立人である住山さんの言い分を大筋で認める形での和解勧告がありました*2。幸い,会社側にも代理人弁護士が付いたため,裁判所の和解勧告を適切に評価したらしく,若干の条件交渉のみで,最終的に合意が成立しました。
なお,和解での話し合いの中で,住山さんは諸般の事情を考慮し,あえて復職ではなく,会社都合によって任意に退職することとし,会社の対応による損害賠償と退職金,未払賃金などを合わせた解決金として500万円を受け取りました。
ちなみに弁護士費用
この事例では,着手金は42万円(税込み),報酬金は71万円4000円(税込み)が標準的な報酬額になります。相手から受領した解決金で報酬金を支払いましたので,住山さんの手元には430万円弱の現金が残り,速やかに失業保険を受けることが出来ました。