法人と代表者の弁護士費用 大阪地判H22.8.27

法人・代表者同時破産申立のケース

 破産会社の代表取締役が、会社と自身の破産申立を弁護士Yに依頼。その費用を会社の預金から支出した。会社と代表者について同じ破産管財人Xが選任され、Xは弁護士Yに代表者分の弁護士費用を不当利得であるとして返還請求したところ、裁判所は請求を全面的に認容した*1。原審は大阪簡裁H22.4.13

感想

 Yとしては、提訴されてしまえば敗訴は必至で、理屈は否定しがたいと思われます*2判例時報の解説も「当たり前でしょ。そりゃ不当利得でしょ」ってな感じです*3。ただ、安易に踏み込むべきではない道だったように感じるのは、法律家として甘いのでしょうか。。。。。

検討

 倒産危機に瀕した会社とその代表者が同時に破産しなければならないケースはたくさんあります。
 そのようなケースでは、ほとんどが弁護士費用の捻出も困難な状態で相談に来られます*4。会社か代表者のいずれか一方には何とか弁護士費用を賄うだけの資産があるものの、片一方はスッカラカン、こういうケースの時、相談を受けた弁護士としてどう対応すればいいでしょう。

1 資産のある方だけ受任して破産手続を取る対応。
2 両方とも受任する
(1)資産のある方からは1件分の費用しか受け取らずに対応し、片一方は無償で対応する。
(2)資産のある方から2件分の費用相当額を1件分として受け取り、片一方は無償で対応する。
(3)資産のある方から2件分の費用を受け取ってそれぞれ対応する。

これらのいずれかになるのでしょうね。
この裁判例が否定したのは2(3)。
2(2)の方法も、本件と同じような考えの管財人が着任してしまうと茶々を入れられる可能性は否定できません*5
1についても、資産のある方が代表者個人だった場合問題が残ります*6
そうなると2(1)ということになるでしょうか*7

残った疑問

本件裁判例とは逆で、代表者が破産会社の分の弁護士費用を出したときはどうなるのでしょうね。
本件では管財人引継金も会社の預金から出ているのではないかと想像されますが、代表者個人の管財人が受領した引継金についてはどのように考えて処理されたのでしょうか。

*1:上告後、元金全額の返還で和解したとのこと

*2:しかし、提訴する管財人も管財人だなあ。どんな人だと思ってググってみたら同期っぽい orz 。法人と代表者をセットにして破産申立代理をしたことがあるなら、このような処理がやむを得ないケースも多々あるとわかりそうなもんだけど、何やら特殊な事情があったのかどうか。。。。。Xがどんな弁護士なのかもやや気になるところですね。

*3:この解説、たいていは担当した裁判官が書いています。豆知識。

*4:事業の行く末を客観的に見据えて、退却戦をスマートに戦うことは誠に困難です

*5:弁護士費用が高杉という理由で否認請求をして認められたケースがあります。当地伊丹支部の有名な決定例

*6:会社の破産とセットでなければダメと言われて処理が進まない可能性があります。会社の事業は破たんしていて入金の可能性はないケースなど。

*7:弁護士は職務上でもボランティア精神を求められているのでしょうかね。番外編としては、全体を受任せず「お金ができたら来てね」と言って追い返すというやり方もあるでしょうけど、それは難しい