弁護士の色分け

camと呼ばれる日弁連メーリングリストがあります*1。僕もよく読んで勉強させてもらっているのですが,最近,これまでよく発言し,議論をリードされてた優秀な先生方が何人か退会を申し出ているようです。理由は「メーリングリスト上の議論が消費者金融など企業側の弁護士に流れる」とか「消費者側に有利な判例情報などが悪用される」とかです。メーリングリスト上で晒すソースの扱いは確かに慎重であるべきだと思うのですが,日弁連が全会員に対してオープンに運営しているもので,その目的が法的知識の交換という点にあるメーリングリストなんですから,消費者側か企業側かに関わらず情報の交換があってもかまわないと思います。しかし,一部の先生方は,情報の交換は消費者側の代理人だけで行うべきであるかのような考えを標榜され,消費者金融代理人をする弁護士を侮蔑的な表現でののしったり,しているので,見ていて正直あきれることもありました。だいたい,消費者側か企業側かなんていう色分け自体が馬鹿馬鹿しいとも思いますし*2代理人の仕事はあくまで「代理」であり,本人と同化することではありません。いろいろな問題に関心を持ってアンテナを張るのは良いと思いますが,身も心もその問題の当事者になりきってしまえば,第三者性,客観性を失い,冷静な判断もできないでしょう。個別のケースで,弁護士が感情的な訴訟活動をしたり,相手の人格攻撃などを記載した準備書面を出すようなことも散見されますが,「それってどうなの?」と思うこともしばしばです。弁護士も増えていろいろな考え方もあるのでしょうが,僕は「立場の交換可能性」を理解して仕事に臨むからこそ代理人としてプロの仕事ができるのだと考えています。司法研修所で裁判官・検察官になる人たちと弁護士になる人たちが「同じ釜の飯を食う」のも,別当事者の実情をお互いに学ぶことで(立場の交換可能性そのものではないにせよ)立場の相互理解につながっていると思います。だから,「○○側の弁護士」という色分けをすることには,どうにも共感できないのです*3

*1:cとaとmがそれぞれ何を指すのかについては諸説あるようですが,少なくとも消費者問題を扱うメーリングリストではあります。このメーリングリストは参加資格を弁護士とするだけであとは特に制限していませんが,消費者問題に関する議論をリードする大メーリングリストになっています。

*2:弁護士は依頼者と利害相反する立場の者から依頼を受けたりすることはできないですが,例えば武富士代理人をしている弁護士がアイフル相手の訴訟を受任することは普通にあるし,問題はありません。

*3:例えば,医療過誤事件における「患者側」対「医師側」とか,交通事故事件における「被害者側」対「加害者側(保険会社側)」などで似たような状況があります。