飲み代支払義務の性質

なかなか判決までいかないケースだと思いますが、目に付いたので紹介します。

忘年会飲食代、県議に支払い命令 神戸簡裁

 加藤修兵庫県議(49)=神戸市東灘区、民主党・県民連合=が忘年会の飲食代を支払っていないとして、神戸市中央区のふぐ料理店が同県議に対し、約十一万円の支払いを求めた訴訟の判決が十三日までに、神戸簡裁であった。妹尾圭策裁判官は「客全員が連帯して支払う義務がある」として、店側から支払いを求められた同議員に、提訴後に支払った自身の飲食代金(約一万二千円)を除いた約九万七千円の支払いを命じた。判決によると、加藤県議は二〇〇五年十二月、事務所名義で同店を予約。計九人で飲食し、一人の男性が「請求書を(会社に)送ってほしい」と店側に名刺を渡した。しかし、男性は支払いに応じず、店側が今年一月、加藤県議を相手に提訴した。  2007/06/13   神戸新聞

 忘年会での飲食代について、代金支払債務の性質が問題になったんでしょうね。分割債務なのか、連帯債務なのか。判決文を読んでみたいですが、どうやら裁判所は、出席者全員の連帯債務としたようです。
 クラブでの接待について争われた類似の事例で、連帯債務とした裁判例があります*1
 店との関係では、宴会の性質などから、主催者と招待客の関係が明らかで、店側から見ても主催者側と参加者の識別が容易な場合、忘年会開催契約*2の当事者はその主催者一人になるケースもありえるでしょう。しかし、そのような事情がない限り、参加者全員での連帯債務になるという結論には合理性がありそうです。債務者が一人か全員かというレベルでは事実認定により悩みもありそうですが、債務者が全員でかつそれぞれが分割債務になるというのはお店側にとってかなり酷な場合もありえるでしょう*3。このケースでは主催者は議員さんの事務所のようですが、同じく政治家が主催するいわゆる政治資金集めのパーティなんかとは違って、忘年会の場合は、参加者はみな横並びな感じがします。そういうケースで自分の飲み代だけを払うという結論に持っていくのは少々骨が折れそうですね。請求書の送付先が別の会社に指定されていた、というあたりが混乱の原因でしょうか。簡単な事例のようですが、いろいろ考えさせられます*4

*1:東京地裁昭和60年10月25日判決。クラブ側が飲食代を接待された人に請求した事案について、「接待者と招待客の関係は、クラブ側から見れば客の内部関係に過ぎない」といった趣旨のことが認定されたようで、この飲食代は連帯債務とされています。

*2:飲食物と場所の提供を内容とする契約でしょうかね

*3:分割債務としてしまうと、飲食店側としては個別に請求回収しなければならないということになり、かなり大変です。例えば、招待客が100人とかになってくると請求などに費やす費用も半端ではありません。

*4:民事裁判の実務修習を受けているとき、指導裁判官から「簡裁から地裁に控訴されてくるいわゆる『レ号事件』は、面白い法律問題が結構含まれているよ」と教えてもらったことがあります。実務についてから、僕もそのとおりだな〜と実感しているところです