第三者成年後見人の遺贈受け取り

職業倫理

 どの職業にも、職業倫理というものがあります。弁護士にも弁護士倫理というのがあり、数年前までは、そのまんまの題名で行為規範として存在していました*1社会福祉士にも職業倫理があるはずで、NPO法人の従業員として成年後見*2に就任業務を担当していたしていたこの方の意識からは抜け落ちていたようです。職業倫理よりも本人の意思を尊重したなどと綺麗に仰っていますが、「私はプロではありません」と言っているようなもので恥ずかしい限りです。

成年後見社会福祉士が347万円相続 戒告処分へ(12月19日2時31分配信 毎日新聞

 東京都八王子市の女性社会福祉士(46)が、成年後見業務を担当していた女性の死後、347万円の遺産を受け取っていたことが分かった。日本社会福祉士会は「報酬以外の受け取りを禁じた倫理綱領を逸脱する行為だ」として、同会では初の戒告処分にする方針。
(中略)
 親族は「こういう形で遺産を受け取るのは立場の悪用だ」と話す。これに対し、社会福祉士は「本人の意思を尊重した。間違ったことをしたとは思わないが、結果的に問題になったことは反省している」と言う。
 日本社会福祉士会金川(かねかわ)洋専務理事は「遺産をもらうべきではなかった。今後このような事態を引き起こさないよう指導していきたい」。NPO法人の理事は「監督責任は免れず、再発防止に努めたい」と話した。【大迫麻記子】
 ◇絶対に許されぬ
 後見制度に詳しい新井誠・筑波大法科大学院教授の話 遺贈の受け取りは、職業倫理上、絶対にやってはいけないことだ。基本中の基本で、NPO法人日本社会福祉士会監督責任も重い。
 【ことば】◇成年後見◇ 高齢や認知症などで判断能力が衰えた人の財産管理などを助けたり、代行する制度で00年に導入された。これまで元行政書士司法書士らが制度を悪用して高額の報酬を取ったり、財産をだまし取る行為が発覚。司法書士で作る「成年後見センター・リーガルサポート」は適正な報酬以外、一切の財産受け取りを禁じている。

倫理を学ぶには

 因みに、職業倫理を醸成するのは、簡単ではありません。弁護士の場合は、弁護士登録時、登録後5年次、10年次、というように研修が義務づけられていますが、当然ながらそのような形式的な研修だけで身に付くはずがありません。職務基本規程を常に意識すると共に、やはりボス弁の元で修行しながら、ボスの事件処理や金銭感覚、倫理感覚を目で見て耳で聞き、自分ならどうするかなどを平行検討しながら体得していくことだと思います*3
 法曹人口の増加で、タク弁*4とかソクドク*5とかのいきなり一人で弁護士開業する新人達が増えますが*6、そのような人たちは、法律の勉強はまだ出来るとしても職業人としての基本を学ぶ機会を与えられないまま実社会に分け入っていくわけで、本人達にとっても顧客予備軍の人たちにとっても、「大変だな」と思います。弁護士倫理にもとる報道も多数耳にしますから、上記のニュース人ごとだと思わないことでしょう。

*1:弁護士職務基本規程と名称変更になりました。中身はあまり変わりませんが

*2:成年後見人は家庭裁判所が親族などからの申立によって選任しますが、親族以外の第三者としては司法書士社会福祉士などが選任されるようです。現時点で、弁護士は最大の選任母体ではないようです。今月の家庭裁判月報に成年後見制度に関する運用の実情など、統計資料が載っていました

*3:言うは易し、行うは何とやらです。僕もまだまだ。。。

*4:司法修習終了後、弁護士として既存の法律事務所に就職できず、やむを得ず自宅を登録事務所として日弁連に申請し、自宅で仕事をする形にする審尋弁護士のこと

*5:タク弁までは行かないまでも、どこにも採用してもらえなかった結果、登録即独立ってな形で事務所を借りたりして開業する新人弁護士のこと

*6:このほか、「ノキ弁」と言われる、既存の弁護士事務所に所属して机と椅子は使わせてもらえるが、給料はもらえず、自分で仕事を取ってきて自分で収入を得なければならない新人弁護士もいるそうです。弁護士事務所の軒先を借りるようなイメージから、ノキ弁と言われます。なお、売上があればそのうちの数割は経費としてその事務所に入れなければならないシステムだと思います。