紛争解決について考える

 今日の雑感=連想エントリーは、非弁行為が切っ掛けです。非弁といわれても、法曹以外の方には何のことやらですよね。え〜と、

非弁行為とは

 法律事件に関して、弁護士以外の人が、報酬を得る目的で、代理行為をしたり、和解締結交渉をしたり、法律相談をしたりすることは弁護士法で禁止されています。

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第72条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

 この法律が何を排除しようとしているかおわかりと思います。いわゆる事件屋さんとかゴト師さんとか、ヤクザ屋さんとかその周辺業種のアウトローの方々が典型で、トラブルに割り込んで解決金名目にお金をせびったりする人たちです。
 しかし、法律事務をしてお金を取っている人はほかにもたくさんいて、時折、事件の相手方関係者として出てきます。コンサルタントと呼ばれる人たちや、きちんとした国家資格をお持ちの方の中にも、このあたりの禁止事項を守らない方がいます*1。もちろん、この規定にはグレーな部分もあるので、違反かどうか判断の付きにくい活動もあります。ただ、そのようなグレーな活動であっても、依頼者には弁護士法の知識などありませんし、おおっぴらにホームページなどで宣伝している街の法律家*2を見つけたら、どこまでは頼めてどこからは頼んではいけないのかなど分からないままに、依頼をしてしまうこともあるでしょう。そして、非弁護士に、弁護士同等かそれ以上の費用を公然と請求されたものの、その非弁護士が一般の弁護士以上にすばらしい成果を残されたかと言えば大いに疑問がある、なんてケースもあると思います*3。実際、非弁護士の方々が、不十分な法的知識や、偏った「実務」経験を基にして、的はずれな関与をされ、紛争がよりおかしな方向へ進んでしまったケースを何件も経験しています。
 只でさえ、一生の内、一度か二度の紛争に際して、解決を依頼した先がしっかりしているかどうかを自己責任で吟味しなければならないなんて、今時の消費者は大変だと思います*4

紛争を解決するなら弁護士へ

 ところで、こんな話をすると、「弁護士はそんなにすごいのか」と言われるかもしれないのですが、ここでそういう文脈で話をしようとしているわけではないのです。弁護士が入れば、必ず勝つのか、必ず満足するのかと言われば、当たり前ですが、「必ずしもそうでない」と答えることになります。
 要は、ルールに則った紛争解決の訓練を受けているのは弁護士だけであり、第三者を入れて紛争解決をしたい場合、適切な第三者としては弁護士を依頼するのが最も「ましな」選択である、ということが言いたいのです。逆に、とにかく紛争に勝ちたいというだけならば、法律の範囲内でという条件付ですが、非弁護士に依頼されても不適切ではないということになります。
 非弁行為を切っ掛けにして、弁護士への依頼を推奨するかのようなエントリーになってきました。ううむ。

弁護士と非弁護士の違い

 弁護士と弁護士じゃない人との間では、紛争を解決するという局面においてどのような違いがあるのでしょうか。
例えば、「声の大きい人」、「限られた分野だけに知識が偏った自称専門家」、「相手の揚げ足取りしかしない人」、「相手の話は一切聞かず自分の意見しか言わない人」などがいますが、これらの人も、他人から依頼を受ければ、それなりに相手方の主張を蹴散らしたり、無力化したり、押し切ったりして、依頼者にとって有利な戦いをしてくれることと思います。しかし、そのような行為は、紛争解決ではなく、紛争の継続になってしまうことが多いようにお思います。一定の結論が得られたとしても、それは一時的なものに過ぎず、必ずしこりは残り、相手方は反撃のために機会をうかがい、長期的にみて依頼者の重要な権利や機会が失われてしまうことすらあるでしょう。これは紛争を終わらせる過程においてあるべきルールが守られず、適切な攻撃防御の機会を与えられず、紛争終結時における当事者の納得や理解が得られていないからだといえます。戦争をイメージすれば、上記の人達は「強力な援軍」ということもできます。あくまで戦争の一方当事者が増えただけで、紛争は継続していて、強力な援護射撃によって相手が沈黙したとしても、これは解決とは言えない場合が多いでしょう。
 これに対して、弁護士のする業務は、援軍と言うよりは国連や平和維持活動のイメージに近いです。紛争を終結させて秩序を回復させることが目的であり、平和的解決の基盤を築き、紛争解決を促す活動をしようとするのです*5。弁護士は、短期的に紛争に勝つことでなく、長期的にみて紛争を解決することを第一の目的とし、その訓練を受けている職種なのです。弁護士は、皆さんに「円満な解決」という言葉をよく口にすると思いますが、これはこの平和維持活動的なイメージを持って、当事者間で問題が再発するなどの後難を出来る限り小さくすることを念頭に置いているために使われる言葉です。
 以前に、当事者との距離という観点から、弁護士業務を雑感したことがあったように思いますが(現在捜索中)、今回は、非弁護士との対比から弁護士業務を雑感してみました。よく、警察官と暴力団関係者の違いについては、揶揄を込めて「前者が地方公務員であって後者はそうでないということ以外、あまり違いがない」と言われるようですが*6、弁護士と事件屋などついても同じようなこと*7を言われないように、違いの分かってもらえるような弁護士活動をしなければならない、と思う今日この頃です。
 

*1:最近では、行政書士が相手方の「関係者」として関与して、紛争がややこしくなった事件を経験しました

*2:弁護士=敷居の高い、というイメージを利用して某職種の方々が編み出したキャッチフレーズ。割といい響きだし、イメージ戦略として成功しているな、とある意味感心しています。

*3:その方に依頼した人が、そのサービスにそれだけのお金を払うというのですから、まあ、勝手ではあるのですが

*4:弁護士であれば一定のレベルは保証されているなんて時代も終わっていますので、ますます大変です

*5:完全に公平な第三者ともいい切れないあたりも含め、国連のイメージです。

*6:あくまで揶揄です。

*7:前者が有資格者であって後者はそうでないということ以外、あまり違いがない?!