控訴審代理人の公募

 事務所に見馴れない自治体からの封書が届いてました。見ると、労働関係の訴訟で1審敗訴した加西市控訴審の市側代理人を公募するという。。。なんじゃそりゃ? 加西市のHPや今日届いた市長名での文書*1を見ると,

  1. 職員の飲酒運転を理由に懲戒免職にしたところ,処分取消の裁判を起こされて敗訴し,即日控訴した
  2. 次は絶対勝たなければならないから,1審を担当した市の顧問弁護士とは控訴審について契約しない
  3. 飲んだら乗るなという加西市の判断の妥当性を示すため,全国から弁護士を公募する*2

というようなことです。
 しかし,控訴審からの代理人交代がそれほどうまくいくのかどうかはよく分かりません。むしろ大変だろうな,と想像します。どんな人が応募するんだろう,という興味はありますが,僕は応募しませんね*3
 まず,僕自身は,一定のレベルを満たしている代理人であれば,代理人の力量で少なくとも裁判の結果が左右されることは稀なのではないかと考えています。依頼者が主張した内容がすべて法廷に顕出されていて,それでも負けたのであれば,控訴することの意味は同じ事実関係を別の裁判官がどのように判断するか見極める点にあるのではないでしょうか。加西市代理人を代えるといいますが,何で代理人を代えるのかよくわかりません。主張すべき事実関係が出ていないのなら,ちゃんと出させればいいだけです。裁判官の判断がおかしいと思うなら,控訴審で再度判断をもらえばいいだけです。結局,代理人を代えるべき場合とは,代理人自体に問題がある場合,もしくはその代理人と依頼者を結ぶ関係に問題がある場合のいずれかでしょう。このケースがそれに当てはまるのか,よくわかりません*4
 また,時間もないです。控訴から50日以内に訴理由書を提出しなければいけないのですが,本日時点ですでに約1ヶ月が経過しています。これでは受任が決まってから提出期限まではほとんど日数がないでしょう。刑事事件の控訴趣意書ほどではないにせよ,控訴理由書が提出できない控訴事件などまともに相手にされません。わずかな時間しかない中で,事実関係を把握して,適切な代理人活動をするのは難しいでしょう*5
 それに,公募の条件では,弁護士費用の見積もりと1審判決に関する所見の提出が求められています。所見を簡単に書けと言われたって,それ書くために文献や判例調査して一定の意見を書くわけです。僕らは,法的知識やその体系,それらのプレゼンテーションを取扱商品にしている自営業者ですから,所見を書くことそれ自体を無償でやるわけにもいかないのです。僕の場合,法律相談後に,見積書を書くことが多いですが,その中で簡単な所見にふれることがあります。でも,相談料はちゃんともらっていますから。全くの無料でそこまでやることはそうありません。それとも,加西市は法律相談料くらいは出してくれるのでしょうかね。
 それと,見積もりを出すのは義務ですし,いいのですが,こういう形で集められてしまうと,なんだか競争入札みたいな感じがしてちょっと違和感あります。
 こうしてみてくると,大変そうでなかなか手を挙げようとは思えなくなるわけです。それでも,仕事のほしい弁護士や,思想信条として飲酒運転撲滅運動に身を投じたいと思う弁護士,加西市にゆかりのある弁護士などが応募するのでしょうね。加西市長が,「弁護士代えなきゃよかった」と思うようなことにならないよう,陰ながら祈っております*6

*1:メディアでも話題になった首長さんなので,これも市長のアイディア,トップダウンの指示なのかな〜と想像しています。

*2:飲酒運転撲滅のためにともに戦いましょう!みたいな感じ

*3:ちなみに,忙しいからだけではありません。飲酒運転は絶対にいけないと思っているので,加西市の飲酒運転に対する厳しい態度そのものは悪いとも思いません。飲んだら乗るな,そのとおりです。ただ,飲酒運転発覚,即懲戒免職というのは確かに処分重すぎ,と思いました。当時,注目されていた事件などの関係で,自治体の態度も世論に迎合して厳罰化したんだろうな,と思っている人はたくさんいるはず。

*4:ここからは完全に想像ですが,例えば市の顧問弁護士が,ものすごく立派な大先生なんだけれども,おそれおおすぎて市の職員ら依頼者側の方たちとうまくコミュニケーションがとれないとか,お忙しすぎて市の側の要望するほどの時間をとってくれないとか,ワシに任せておけ的な対応で依頼者側に十分な説明をしてくれない,などの事情があるのではないでしょうか。そうであれば,まさに依頼者弁護士間のコミュニケーションの問題ですね。代理人交代もありと思わざるをえません。

*5:とりわけ,市の担当者と信頼関係を築くのが大変だろうと思います

*6:何度も言いますが,飲酒運転撲滅という目的自体は大賛成なんですから。。。