あの検事さんの弁解を考えてみる
昨日、大阪地検の特捜部検察官が、最高検に逮捕されました。先ほどネットを見たら、今日付けで勾留決定も出ているようです。ひっくり返ったような騒ぎで、報道があふれていますね。
弁護人は?
まず、気になるのは、検察官という立場にあった人にどのような弁護人がつくのかということかもしれません。これについては、慣例というか情誼といいますか、業界の慣習のようなものがあり、おそらくは司法修習同期の弁護団が結成されて、最初からしっかりとした起訴前弁護活動が展開されるのだろうと思います。
弁解内容は?
実は、僕が気になっているのは、かの検事が述べる弁解です。すでに、逮捕直後の弁解録取書は出来上がっているのだと思いますが、どんな内容なのか。
報道された弁解は、「遊んでいたら誤って書き換わってしまった」とでもいうようななんとも信じられない言い訳でした。
でも、これって断片的なことなのか、要点をきちんとついてまとめたものなのか、いわゆる「意訳」されたものなのか、報道を見る側ではリアルタイムでは検証できません。でも、そのまま読んでいてストンと落ちてこない何かがあります。そこで、限られた情報を元に、ちょっと考えてみました。ただ、さきにお断りしておきますと、僕も、あの事件について村木元局長の無罪は当然のことと思っています。あの結論に至ることができて本当によかったと思っています。そして、私は、問題の検事と面識はありませんし、研修所の同期であったり、大学の先輩後輩などでもありません。ですから、いかにつらつら書くことは、あくまでも思考訓練の一環のようなものです。気に障ったら、職業病だと思ってくださいね。
まず、足元を固めます。
当該証拠品のFDが村木元局長さんの無罪にいたる重要証拠であったということは間違いないでしょう。そして、押収時点で、検察官が想定していた文書作成時期と異なる最終更新日を表示していたのも、おそらく間違いないことでしょう。実際、検察官は、この事実を忠実に捜査報告書にして残しています。
で、この段階で、検察官がどのような意図でどのようなことをするだろうか、と想像してみます。
ひとつの可能性*1。検事は「これは自分たちの描いたシナリオと矛盾する。矛盾しないように更新日時を書き換えよう」と考える。この場合、検事は更新日時の書き換えにまっしぐら。今のところ、報道はこの方向で一致しているように思いました。きわめて分かりやすいです。この場合は弁解のしようもないのですが、やはり話しぶりは気になりますね*2。
別のひとつの可能性。検事は「これは自分たちの描いたシナリオと矛盾する。でも、このFDの更新日時を信用していいのか。偽装されたものではないか」と考える。こう考えた検察官は、捜査の一環として検証作業を行うでしょう。検証するためには、FDを検索して偽装の痕跡がないかどうかを調べることのほか、類似の記憶媒体を使って更新日時の偽装が可能かどうか実験してみることも有用でしょう。ちょっとパソコンの知識があれば、ネットでそのような偽装に用いるソフトがダウンロードできることも分かるでしょう*3。検事がこのような考えを実行しようとしていて、FDの複製後に複製品と原本を取り違えて書き換えをしてしまったとか、手順を間違って先に日時書き換え作業を行ってしまったとかの可能性が考えられます。この場合の弁解は、「押収したFDのデータが偽装されたものではないかと疑い、検証作業を行おうとしたところ、誤って原本のデータを書き換えてしまった」というものになどが考えられます*4。証拠隠滅罪に過失犯処罰規定はありませんから、故意を否認する弁解が成り立ってしまえば、罪には問えません。
本件については、最高検が直接捜査を指揮しているということです。求められているのが拙速でも必罰でもなく基本に忠実で徹底的な捜査のはずで、「無辜の不処罰」というあたりにも留意して模範となるような捜査を展開して見せてほしいです*5。
適不適の問題
さて、上で頭の体操をして書き連ねた内容は、件の検事の捜査活動が適切だったか、ということとはまったく関係ありません。だって、検証だろうがなんだろうが、その作業に証拠の原本を使用する必要はなく、誤って原本を書き換えてしまったことはきわめてきわめて不適切といえるでしょう。仮に、上記2番目のような弁解であったとしても、エースと呼ばれる捜査官がすることとしては、とても杜撰だといえるでしょう。そんな検証が必要だったなら、科捜研だか法綜研だかにでも外注しなさいっていうことですよね。