死刑制度〜いびつな運用も問題

 毎日新聞の少し前の記事です。

東京拘置所:拘置中の女の死刑囚が病死
 東京都内で74〜78年、夫ら2人を殺害したとして91年に死刑が確定した諸橋昭江死刑囚(75)が病死していたことが分かった。東京拘置所(東京都葛飾区)に拘置されていた同死刑囚は5月14日に急性心筋梗塞(こうそく)と診断され、都内の病院で治療を受けていたが今月17日死亡したという。(後略)  毎日新聞 2007年7月18日 東京夕刊

 宅間守死刑囚のように、自らそれを望み、そして世論からもある意味で追い風を受けて異例の早さで死刑が執行された例がある一方で、確定から16年間、執行されることなく、拘置所内で病死していく高齢の死刑囚もいます。死刑囚については、次のような規程がありますが、空文化しているというのが実情です。

刑事訴訟法第475条
1 死刑の執行は、法務大臣の命令による。
2 前項の命令は、判決確定の日から6箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であつた者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。 
同第476条
  法務大臣が死刑の執行を命じたときは、5日以内にその執行をしなければならない。

 ときの法務大臣の思想信条によっては、広い意味の政治的判断によって全く執行されない可能性もあるわけです。刑事司法や刑事手続、刑罰というのは、最低限、公平さや公正らしさが保たれなければ、主権者である国民からの信頼に耐えるものといえません。刑罰権が国にのみあるということは、私的制裁(リンチ)を禁じ、制裁の権限を私人から奪って国家に集約し適正かつ厳正に行使させることによって、犯罪被害者らの応報感情と社会秩序の維持を両立させるあたりにミソがあるのですが、刑の執行が極めて不公平、不公正になされるのであれば、制度的基礎が揺らいでしまうわけです。
 無期懲役以下の刑罰についてこのような不公平、不公正は特に指摘されていませんから、法定刑の内で問題なのはやはり「死刑」なのでしょう。
 僕としては、

  1. 制度として存置している以上は、死刑判決確定から6ヶ月以内に順番にどんどん執行すべきだ*1
  2. もし,刑事訴訟法に従った適切な運用が出来ないばかりか,「社会の耳目を弾いた事件の死刑囚だから」とか「被害感情が特に大きい事件の死刑囚だから」とか「死刑囚本人が執行を望んでいるから」などという恣意的な理由で,選択的に死刑執行が行われていくくらいなら,そのような制度は維持すべきでない。
  3. もし,死刑を廃止するのであれば,上記記事の死刑囚が実際にはそうであったように,「終身刑」という法定刑の創設や,死刑の執行猶予制度を検討すべきなんだろう。

と考えています*2

*1:というよりは、執行できるものならしてみせてほしい,という考え

*2:旧司法試験の「刑事政策」では,有名(でも出題はされない)論点でした。当時は死刑存置という論調で答案を書く人はほとんどいなかったと思いますが,実務に就くと考えの変わる人が多いようです。僕は変わらなかったので,今でも将来的には死刑は廃止すべきだと思っています。ただ,政治や社会の情勢から考えて今しばらくは難しいでしょうね。存置されている間は,僕も法律家ですから,もちろんその制度を尊重しています。死刑が現在法制化され,それが理論的な問題はさておいても,存置されていることの意味はあると思いますので